「LeanとDevOpsの科学」 ソフトウェアデリバリのパフォーマンスと業績

はじめに

前回の「LeanとDevOpsの科学」を読む前に整理したいことに引き続き同じ書籍ついて書きます。書籍の補助的な文献となることを目指します。

ソフトウェアデリバリのパフォーマンスと業績

前回の記事では「ソフトウェアデリバリのパフォーマンスが良ければ会社の業績にも良い影響を与えるのでは?」という仮説が立てられ、それを科学的に検証したのが本書であると説明しました。

科学的な検証とは統計学の手法で、仮説を立てて結論を出すまでの流れは以下のような感じです。

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最初に立てた仮説(設定した問題)が「ソフトウェアデリバリのパフォーマンスが良ければ業績へ良い影響を与えるのでは?」というところです。これらが統計学の手法をもちいて検証され、仮説はあっていたと結論付けられました。

少し具体的に説明します。ソフトウェアデリバリのパフォーマンスの定義*1に従って企業を調査したところ、「ハイパフォーマー」「ミドルパフォーマー」「ローパフォーマー」というようにクラスタリングすることができました。この分け方も統計学的に有効な分類なようです。

そしてパフォーマンスが良いクラスタになるほど業績も良い傾向にあるということを言っています。本当でしょうか。ソフトウェアデリバリのパフォーマンスと業績には因果関係があり以下のようになるという結果です。これはイメージ図です。

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これは私が適当に作ったイメージ図ですがこのようになるはずだということです。例えば外れ値があった場合は、ソフトウェアデリバリは良くても経営戦略がだめだったとか、外部環境がだめだったなどで説明付けられるはずということでもあります。

この調査が行われた対象となる企業はどんな企業でしょうか?私達の企業も当てはまるでしょうか?

原書の15章を見ますと以下のように書いてあります。

Our research design—a cross-sectional data collection1 for four years—recruited professionals and organizations familiar with the word DevOps (or at least willing to read an email or social media post with the word DevOps), which targeted our data collection accordingly.

Forsgren PhD, Nicole. Accelerate . IT Revolution Press. Kindle 版.

企業のDevOps関連の専門家だったり、DevOpsに馴染みのある企業が対象です。そして、書籍にはテクノロジーが重要な役割を果たす業界とも書いてあります。

ソフトウェアデリバリのパフォーマンスの向上

それではソフトウェアデリバリのパフォーマンスを良くすれば業績も良くなるという結果が正しいとしましょう。かつその結論は私達の企業に当てはまるとしましょう。とすると私達はソフトウェアデリバリのパフォーマンスを改善するべきです。

書籍ではソフトウェアデリバリを改善する24ケイパビリティというものを明らかにしています。そしてこれらは下記の5つのカテゴリに分けられます。

  • 継続的デリバリ
  • アーキテクチャ
  • 製品・プロセス
  • リーン思考に基づく管理と監視
  • 組織文化

上から2つ目までのCIやソフトウェアのアーキテクチャはソフトウェアデリバリに重要なのはわかりやすいでしょう。以降の3つも継続的デリバリができるかは組織の都合もあることを考えると何となくわかるかと思います。

具体的には省きますので書籍を御覧ください。

LeanとDevOpsの科学の功績について

書籍の主張が正しいかどうかは別として、例えば以下のような点においては業界の進展に貢献していると私は思います。

  • リーンやアジャイルといったプラクティスの優位性を科学的なアプローチで検証しようとした。 ー 感覚ですが私はまだ我々の業界は工学には遠いと思っていて、単なるプラクティスを工学へ昇華するために必要であり重要だと思います。
  • ソフトウェアデリバリのパフォーマンスを計測するための指標を定義した。
  • 継続的デリバリなどの手法のほか組織文化やリーダーシップなど幅広く論点を出した

おわりに

書籍で出てくるケイパビリティというのは経営学の資源ベース論で出てくる概念です。戦略の遂行に関わりバリューチェーン横断的に関わる組織の能力や機能です。またケイパビリティというのは見えづらく、複数の職能にまたがるためCEOが積極的に推し進めるべきものです。

この書籍では「あの企業はこういう独自技術があるから競争優位性がある」ということではなく、「あの企業は継続的デリバリを実践していて組織にこんなケイパビリティがあるから競争優位性がある」というようなことにスポットライトを当てたという点で非常に面白い書籍だと思います。

*1:前回の記事を参照ください