はじめに
OKRとObjectives and Key Resultsの略で、目標と主要な結果という意味です。組織の目標管理に使われます。インテルでアンディ・グローブにより導入され、今回紹介する本の著者であるジョン・ドーアによりグーグルはじめ様々な企業に広められました。
今回そのOKRについて書かれた書籍「Measure What Matters」を読んだので、書籍に書かれていたこと、そして私の考えと思ったことを書きます。
Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR (メジャー・ホワット・マターズ)
- 作者:ジョン・ドーア
- 発売日: 2018/10/16
- メディア: 単行本
OKRに関するノウハウやケーススタディが書かれておりバイブルとして使える良書だと思いました。
また、OKRを成功させるためのCFRというConversation(対話)、Feedback(フィードバック)、Recognition(承認)の頭文字を取った継続的パフォーマンス管理という手法も紹介されていました。
この記事では書籍に書かれていないことも含めてOKRと組織についての考えを書きます。
日本における評価制度
日本では目標管理そして評価制度のツールとしてMBO(Management By Objective)を取り入れている企業が多いのではないでしょうか?昔はだいたい年功序列で良かったのですが、だんだんと成果が求められるようになり、成果主義のアメリカでうまくいっているらしいMBOを取り入れだしたのが始まりです。背景にはバブル崩壊やグローバル化などがあったようです。
MBO
MBOではトップダウン形式に組織の経営戦略に合う目標が各部門そして個人へと降りてきます。個人に降りてきた時は組織のKPIが反映された〇〇件受注などといった形になっていると思います。そしてその成果はそのまま評価に結びつく場合が多いでしょう。OKRでは四半期や月次と言ったサイクルで評価しますが、MBOはだいたい年次で評価されます。
MBOの負の面
トップダウンにコントロールしたい統制された組織ならばいいかもしれませんが、例えば以下のような負の面があります。
- 個人に降りてきた数値に意味合いや納得感がない
- 目標が数値じゃない場合は何を持って達成できたかわからない
- 達成するモチベーションを保つのが難しい
- 評価に直結するのでなるべく保守的な成果目標をおこうという心理が働く
昔の製造業などは良いのかもしれません*1。ボトムアップにクリエイティビティが発揮されることが必要なIT企業ではあまりマッチしない制度かと思います。
MBOの実際
書籍で紹介されているMBOと違い、実際は成果目標や行動目標を社員が自分で*2考えて決めると思います。また半期で評価したりなど各企業で改良して運用されていると思います。
OKR
OKRは組織の目標管理のツールです*3。MBOと同様に組織から部門、個人にわたって目標(Objective)を決めます。MBOと違い、すべてが達成されたならば目標が達成されたと言えるような主要な成果目標(Key Results)も一緒に決めます。成果目標は測定可能なものを設定します。それにより目標が達成できたかがわかるようになっています。MBOでは基本的に「何をするか」を目標におくだけですが、OKRでは「どのようにするか」という測定可能な目標もおくようになっています。
アンディ・グローブはインテルで知識労働者のアウトプットをどう定義・測定し高めていくかという問題に答えるツールとしてMBOを改良しOKRを考案したそうです。
OKRとボトムアップ
OKRでも組織の経営戦略に沿った目標が決められますが、トップダウンに降りてくるわけではありません。組織のOKRや各部門のOKRなどが公開されて、それに沿った目標を社員が自分で設定します。背景には「人に自らの進む道を選択させると、最後までやり遂げる可能性が高まる」というような原理があります。
OKRと評価、報酬
OKRが達成できたかどうかが直接的に評価や報酬に反映されるわけではありません。IT業界など知識労働においては、市場環境の変化が激しくそもそも立てた目標が意味をなさなくなったりします。また、保守的な目標をおかず、飛躍的な発想をするためにもOKRと評価・報酬を直結させないようにします。
恐らくここは人事制度的に難しいところで、OKRに頑張って取り組めば評価があがるように評価制度を設計するか、評価が上がるようにOKRを設定する必要があると思います。
OKRの4つの威力
書籍で紹介されているOKRの4つの威力を簡単に紹介します。
- 優先事項にフォーカスし、コミットする
- アラインメントと連携がチームワークを生む
- 進捗をトラッキングし、責任を明確にする
- 驚異的成果にむけてストレッチする
優先事項にフォーカスし、コミットする
目標を決めるに当たり考えるべきことは「これからの3カ月(あるいは6カ月、12カ月)で一番重要なことは何か?」ということです。OKRでは目標は1~3個に絞ります。
次に計測可能な主要な成果目標を決めて、目標が達成できたのか判断できるようにします。目標は主要な成果目標の平均の達成度が70%達成できれば成功とします。
Googleではいついつにリリースなど100%達成が必要な「コミットする目標」と70%達成で成功と言える「野心的な目標」を使い分けているようです。
心理学教授のエドウィン・ロックにより「明確に定義された困難な目標は生産性を高める」ということがわかっています。OKRにより今集中すべき一番重要なことが明確に定義されたはずです。
アラインメントと連携がチームワークを生む
OKRは公開されていています。組織のOKR、所属する部署のOKR、横の部署やチームのOKRなどを見ることができて、社員は自分でOKRを決めます。その時には組織のOKRを見つつ、隣のチームのOKRを見つつ決めるので、自然と組織全体が同じ方向を向くように目標が設定されます。また、もし社員が決めたOKRがとても重要な場合は、ボトムアップに会社のOKRが調整されることもあります。書籍ではGoogleにおけるボトムアップにOKRが設定された例も紹介されていました。
そのようにOKRが公開されていることでお互いの目標が調整され、関連や依存する業務においてチームワークが生まれます。
進捗をトラッキングし、責任を明確にする
OKRでは週次のレビューが推奨されています。主要な成果目標により進捗が可視化されるので、進捗のトラッキングや責任も明確になります。また、達成度がわかるのでOKRの取り組み期間が終了した時点で評価や振り返りも効果的にできます。これにより目標設定プロセスは改善されますし、明確なフィードバックは社員の育成にも役に立つと思います。
驚異的成果にむけてストレッチする
野心的な目標を立てることで個人の生産性を引き出すことができます。どれくらいストレッチした目標を立てるのかは難しいですが、コツは「驚異的成果とは何かを考える」ことなようです。書籍ではストレッチした目標が成功した例として、インテルのクラッシュ作戦というモトローラの優勢をひっくり返した例が紹介されていました。
以上、OKRの説明でした。
我々はなぜ働くのか
MBOやOKRはいわゆる人事制度の1つです。これから人材マネジメントの視点から組織を見たいと思います。なぜ私達は働いているのでしょうか?
- 家族を養うため
- 仕事が面白いから
- 会社のため
- 社会に貢献するため
- 自分のスキルのため
- 単純にお金が欲しいから
などなど人それぞれに理由があると思います。
では、なぜ会社で働くのか?
会社は人が集まった組織です。なぜ集まるのかというと、1人ではできないような大きな目的を達成するためです。
その目的は会社ごとに違いますが、それを邪魔するもしくは貢献しないならば組織に取っては不要となってしまうと思います。お金が必要だから働くのも良いですが、会社で働く以上は会社の目的に貢献する必要があります。もちろん会社は雇用機会を作るなど社会的責任もあるので、一概には言えません。
我々労働者は会社の目的に向かうように自然と仕向けられています。それをやっているのが人材マネジメント(HRM. Human Resource Management)です。
人材マネジメント
人材マネジメントとは主に次の3つを人事ポリシーに従って考えることです。人事ポリシーとは経営陣などが決める「人」に対する考え方です。
- 組織構造
- 人事制度
- 組織文化
組織構造
組織構造というのは役割分担です。皆が全てのことをやるのではなく、仕事を分けて担当を決めます。
仕事を分けずに皆が全てのことをやるならば、どうなるでしょう?もしかしたら「〇〇やった?△△お願い。次は自分✗✗やるから!」みたいなコミュニケーションに疲れたり、新しく来た人にとっても覚えることが多くて大変になるかもしれません。
仕事を分けることで、コミュニケーションコストも下がりますし、担当分野について詳しくなりスキルも上がり、全体としても生産性が上がります。そして仕事はそうなるように分けるべきです。
人事制度
人事制度では主に以下の4つの制度を決めます。
- 配置
- 評価
- 報酬
- 育成
まずは人材の採用に始まりその人材を「配置、評価、報酬、育成」のループを周り会社に取ってどんどん価値のある人材になっていきます。もちろん退職もあります。なぜこのループを回すかというと、社員に最大限にパフォーマンスを発揮してもらい会社の目的を達成させるためです。
組織文化
組織文化とはその組織の価値観や考え方です。書籍ではOKRとCFRと組織文化についても触れられています。
OKRと組織
会社には目的があり社員にはそれに向けて高いパフォーマンスを発揮してもらう必要があります。そのために人材マネジメントがあり、ツールとしてOKRがあります。OKRは人材マネジメントの様々な面に影響を与えると思います。また、OKRもただのツールに過ぎず、各社員がOKRをしっかりと実践するために、運用が確実になされている必要があります。
社員目線で言うと、OKRの意味を正しく理解し実践することは、自分のパフォーマンスを高め組織に貢献することに繋がります。
おわりに
MBOは各企業で改良されて運用されているケースが多いと思います。その場合「目標設定のこの項目の意味は?」「どういうことを書けばいいのか?」「なぜこういう項目があるのか?」などを社内に浸透させて、しっかり運用する必要があります。OKRは僕のような末端の社員でも本を読めば理解してどのように書くべきかや、その背景の考え方を理解することができます。
まだOKRを完全に実践できていると言えないですが、書籍を参考にしつつ今後取り組んでいきたいと思います。
Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR (メジャー・ホワット・マターズ)
- 作者:ジョン・ドーア
- 発売日: 2018/10/16
- メディア: 単行本