はじめに
「「集合と位相」をなぜ学ぶのか」という本を読みました。おそらく大学数学をやる前か学び中に読むような本かと思います*1。集合と位相が現代の数学では基礎理論となっているかと思いますが、書籍ではそうなる少し前(18世紀頃)からの流れを追っています。
「集合と位相」をなぜ学ぶのか ― 数学の基礎として根づくまでの歴史
- 作者:藤田 博司
- 発売日: 2018/03/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
私は位相空間は定義を見るだけでも眠くなるのですが、書籍を一通り読むと位相を学びたくなります*2。
書籍の目次
第1章 フーリエ級数と「任意の関数」 第2章 積分の再定義 第3章 実数直線と点集合 第4章 平面と直線は同じ大きさ? 第5章 やっぱり平面と直線は違う 第6章 ボレルの測度とルベーグの積分 第7章 集合と位相はこうして数学の共通語になった
おもしろポイント
ストーリーで理解できる
フーリエ級数に始まり、その問題点と解決するための取り組み、というような流れで出てくる数式をストーリーを理解できます。私は数学ってだいたい何を言っているかわからないのですが、背景を知ることで数式の気持ちがわかったと感じました。
数学がどう発展してきたのかというイメージが分かる
この書籍は数学史という一面もあるので、何となく、「あぁ、数学ってそうやって発展してきたのか。」というイメージが持てました。
人物紹介が面白い
登場人物の紹介が書いてあるのですが、どんな人がこの数式を考えたのかという想像ができて面白いです。
エミール・ボレル
私は特にボレルさんという19世紀の終わりから活躍し、生涯を通じて学術と政治の両面で活躍された方が好きです。枠にとらわれず活躍するという、たぶんこういう人になりたいです。
フランスの数学者ですが、第一次世界大戦では自ら兵役に志願して戦い、内閣官房の事務局長も努め、大学に戻ると研究所を作ったりします。第二次世界大戦では対独レジスタンスにくみして戦い、投獄され戦後もユネスコ科学委員会の委員長を務めます。などなどが書籍に書かれてあります。エミール・ボレルだけで書籍を出してほしいです。
「集合と位相」をなぜ学ぶのか
ごく簡単に書籍の流れを書こうと思います。以下で引用される画像は書籍*3のものです。
微分積分
17世紀にニュートンとライプニッツが初めて微分の考えを発見しました。それ以来、積分は微分の逆として定義されてきました。
フーリエ級数
フーリエが熱伝導方程式を解く過程でフーリエ級数を考え出しました。ただし導くためには積分の理論が不十分でした。
ちなみにフーリエ級数は以下のような形のものです。
フーリエは三角関数の和でどんな関数でもあらわされると主張しましたが、厳密な証明を与えることは最後までできませんでした。
ディリクレのフーリエ級数の収束条件
ディリクレは18世紀までの関数とは代数的な式や冪級数の形で与えられたものという概念から脱却します。関数を独立変数によって値が決まるというものととらえました。そして関数が連続であるということを定義*4し、フーリエが実例を元に述べたフーリエ級数の収束について、一般的な条件をもとに数学的に厳密な論証を与えました。
書籍より条件を引用します。
コーシーの積分の定義
コーシーは積分の定義を改良し、高校の数学で習うような面積の総和の形で定義します。コーシーの積分により微分の逆ではなく面積を求めるという見方が生まれました。その時の積分可能な関数とは連続な関数です。
リーマン積分
リーマンはフーリエ級数で表示できるような関数はどのような性質を持つかという方向に問いを立てて、必要条件を調べるアプローチを考えました。ディリクレの関数の概念の元、コーシーの積分の定義の条件を厳しくし、積分可能な関数を定義しました*5。
コーシーの積分からリーマンの積分の発展
コーシーの積分では関数が連続なら積分可能というだけでしたが、リーマンの定義だと積分可能な関数が拡張されています*6。
僕は数学に詳しくないので、リーマン積分の改良点については正直まだもやもやしています。詳しくはリーマンの論文に書いてあるようなのでそれを読めばいいとは思っています*7。そしてその論文の和訳をネットで見つけました!また聞くところによる高瀬正仁さんの書籍に書いてあるかもしれないということでした。
実数の研究
積分の理論には実数論の成熟が必要だったというストーリーのようです*8。そこで出てくるのがカントールという集合論の創始者です。カントールは実数の直線を点の集まりと見て、点集合と呼ぶことにしました。集合の概念が数学に導入されたということです。
実数の連続性の表現や、実数の区間と点列による表現などを考察していき、集合の濃度に発展していきます。濃度というのはカントールが定義した集合の大きさを表すものです。集合の濃度とは要素の個数に相当するものです*9。
位相
カントールによって直線*10と平面*11の濃度は同じということがわかりました。これにより次元の概念が覆るのではとデデキントに相談をします。デデキントは直線から平面への写像(全単射)が連続性をもたないことを指摘します。
実数の連続性から写像の連続性というものに発展していきます。簡単に言うと、xが収束する時にf(x)も収束するかどうかというものが写像の連続性です*12。この概念で例えば開区間(0,1)と直線全体が同じもの、そして直線と平面が別のものであるということが導き出されました*13。
これらの研究は位相構造というものに発展していきます。
測度
先程はカントールの点集合から写像への発展の話をしましたが、再び実数の点集合の話に戻ります。ボレルは濃度の概念を発展させて測度という概念を導入します。測度は集合の大きさを測る濃度とはまた別の定義です。
ボレルの測度からルベーグが積分のためのルベーグ測度を定義し、ルベーグ積分をつくりました。ここでようやくフーリエ級数の問題が解決されるようです*14。
ボレルの測度論
測度論は難しいと言われているそうですが、このボレルの測度で測度の気持ちはわかるのではないでしょうか?ちなみにボレルの測度の定義は以下です。
カントールは集合の大きさを数えるように濃度というものを考えましたが、ボレルの定義では集合はまず区間のことを指していて、その大きさが区間の距離に相当するという感じでしょうか。(2)(3)で可測集合を増やしていきます。
また、(2)(3)の根拠として、ハイネ-ボレルの定理を考えました。これは詳しくは書かれていないのですが、閉区間ならば必ず区間の縮小列が収束するというのと似たようなことだと思います。
現代数学の流れ
書籍の最後の章では、20世紀の数学では直線や平面というイメージを抜き去って純粋な論理だけで議論する方向に進むというような話がされます。その時に使われるのが集合論です。何かしらの構造をもたせた集合を空間と呼びますが、その議論においては直線や平面というイメージはなく、構造を持った集合という無味乾燥に見えるものになっています。
おわりに
例えば距離空間という要素に距離の概念をもたせた空間があります。これはユークリッド空間(小中高で見た直線や平面など)という具体的なイメージがありますが、抽象的な概念だけで具体的なイメージが全くないものもありそうですね。数学を学ぶ人はそういうのを知るのも楽しみの1つなのでしょうか。
また圏論は集合論に代わる数学を基礎づけるものらしいですが*15、この書籍で集合論の位置づけのようなものがわかると圏論の話もイメージができそうです。
書籍では区間の話など、「あれ、また出てきたけど、何か違うのか?」と思うことがありましたが、集合論*16が導入されているか否かという話かと思います。書籍には出てきていませんが、プログラマとしてはフレーゲの数理論理学の話もいずれ興味が湧いた時に追っていきたいと思います。
*1:私にとっては大人の数学の学び直し
*2:この書籍はフーリエ級数から位相構造までの表面をさらう感じなので細かいことまでは書いていません。ただ何を調べればいいのかは何となくわかりました
*3:藤田 博司. 「集合と位相」をなぜ学ぶのか ―数学の基礎として根づくまでの歴史 (Kindle の位置No.363). 株式会社技術評論社. Kindle 版.
*4:xが収束する時にf(x)も収束するというようなもの。連続性については開区間や閉区間という概念も伴って研究されていたよう。
*5:階段関数やジョルダン測度というものでリーマン積分の考えが整理されていったよう
*6:例えば不連続な点が有限個でその点を含む区間が収束するならば積分可能など
*7:時間が足らない..!!
*8:たぶん
*9:ただし実数の濃度は数えられない
*10:実数直線
*11:実数平面
*12:ディリクレの関数の連続性の時との違いは、集合という概念があるかどうかかと思っています。また要素の距離という概念を含んでいて、後に抽象化されます。
*13:証明には連結性が使われます
*14:関数の積分と無限和の順序交換がある条件下で可能ということを示せる